2012年6月20日水曜日

【読書メモ】『医者は現場でどう考えるか』

医者は現場でどう考えるか
ジェローム グループマン
石風社
売り上げランキング: 47470

今年読んだ本の中で個人的に一番のヒット。高度な医学知識を身につけた医者は、それらの知識を実際の現場で様々に応用して、的確な治療方法を瞬時に判断し、治療に当たらなければならない。ちょっとしたミスは、患者の人命にも関わることもあるのである。

患者はコンピューターではなく、千差万別な生きている人間だから、症状を話す言葉もそれぞれ。同じ患者でも話す言葉、単語が異なる。そして、医師もまた人間であり、ミスをゼロにすることはできない。

本書は、医師である著者が、過酷な医療現場でどのように学び、そして、医療の現場で起こりうる(または起きてしまった)失敗、そしてそれらの失敗をどうやって減らしていくのかといった点について、実際に取られているいろいろな現場での取組みを医師の声を元に「現場の医師はどう考えるのか」を明らかにしてくれる。

この本では、治療効果もなく、具体的な原因の分からない「やっかい」な患者を見事な方法でその症状の原因を特定し、適切な治療を行った医師が登場する。

彼らは単にスーパーマンなのだろうか。そして、彼らはなぜ、原因の特定に至ることができたのだろうか。彼らに共通するのは、過去の苦い経験を忘れずに覚えこみ、思考に組み込む。まず、失敗を忘れずに覚えるということが大事なのだ。嫌なことは忘れて・・・・これでは一向に問題は解決しないのだ。(耳が痛い。。。)失敗の原因を追求するのは業種が違えど同じだと思う。失敗の解決法のアプローチとして、としても参考になるかもしれない。

医師は患者と患者と挨拶を交わした瞬間から診断のことを考える。顔色、目や口の動き、座り方、立ち方、声の響き、呼吸の深さなど。研究によると、ほとんどの医師は患者とあった時点で即座に二、三の診断の可能性を思いつくらしい。病院の先生は頭がフル回転なのだ。

珍しい症例は、「症例報告」という会議で医療関係者に共有される。そこでは、実際にその症例に立ち会わなかった医師も症例を学ぶことができる。ただ、ここでは、医療のミスの経過については細かく分析されることはないらしい。だから、本書では、これらの場で徹底的に医療のミスについて究明されるように分析が必要であるとしている。

医療現場は、効率的に患者をまわすことが求められる。患者が多いのである。だがそういう状況は「ミス」を引き起こす原因となる。そのような状況にどうやってアプローチをすればよいだろうか。ここではある診療所のアプローチが紹介されている。そこの放射線科医は、同僚が撮影したX線写真を四〜五枚読影している。こうすることで各々の読影の結果を比較して、相互チェックするのである。間違いをみつけることはもちろん、同僚の間違いから学ぶこともできるのだ。

本書では、医師の考え方を述べているが、そこには患者の言葉も重要なのだ。「最悪の考えられる症状は何ですか。」、「他に何が考えられますか。」患者や、患者の親族によるこういう言葉は時に医師の狭まった視野を広げてくれる。

2012年6月14日木曜日

【読書メモ】『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』

閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
イーライ・パリサー
早川書房
売り上げランキング: 9212

HONZ.JPで取り上げられた本。普段、良く利用するGoogleやYahooなどの無料の各種サービスでは、利用者に関する情報がいろいろ収集されていることは、十分わかっているつもりだ。検索サイトでの検索結果もそれらの情報を使ってより「役に立つ」検索結果がでるように「パーソナライズ」されてる。

じゃ、具体的に収集された情報はどの程度のレベルでどのように収集されているのだろうか。また、パーソナライズされる検索結果が突き詰められるとどんなことが懸念されるのだろうか。

この本を読み終わったら、Googleは便利だなぁって言っていた自分が脳天気に感じられてしまう。やっぱり、ただより高いものはないんだな、それを痛感する本である。じゃ、ネットは使わないかっていうと、そうも言ってられない。何も知らないよりは、本書を読んだ上で、ネットの上の便利なサービスを利用したほうがいいんじゃないかと思いました。

GoogleやFaceBookなどのログインをして利用するサービスでは、ログイン情報とあわせて、どこで、どの時間帯に、どのくらいの頻度に、どのサイトのどのボタンをクリックしたか、などのいろいろな情報が収集されていく。そして、そこから膨大な計算がされて、各業種に使える情報として、見えないところで売買されていく。

無料のメールサービスでは、ログイン情報とメール文面からもいろいろな傾向情報がログインIDと紐付けられていく。だから、うっかりプロフィールなんかに性別、年齢、住んでいる場所なんかを入れた日にゃ、それはマーケティング上、とても貴重な情報となるわけです。

震災の時に、こりゃ便利だと自分も購入したiPhoneの無料通話ソフトなんかは、よくよく見ると、端末の情報(位置情報等)を収集する旨を規約に書いている。なるほど、これらの情報が手に入れて売っちゃえば、ソフトをタダにしても十分元取れちゃうってことなんですね。

検索結果が最適されることを「パーソナライゼーション」と呼ぶらしい。それはそれで便利だけれど、その行き着くところが、ログインしたら検索しなくても勝手に求める情報が表示されるWebページ。なんだか気持ち悪い。

検索結果が自分に便利なものだけが表示されるだけならまだマシかもしれない。もっと怖いのは、自分に都合のいい情報しか手に入らなくなるかもしれないってこと。自分の知りたいニュースを検索したら、自分と同じ信条、似たような意見に関するページが検索結果の上位に出てくるようになる。ということは、知らずに自分の思考が狭まってしまう可能性があるってことが語られている。なんか怖いですね。

いろいろ考えさせられた本。おもしろかったです。

2012年6月4日月曜日

【読書メモ】こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと

こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと
ヨリス ライエンダイク
英治出版
売り上げランキング: 11716
HONZ.JPで取り上げられた本。著者はNVJ(オランダ・ジャーナリスト教会)”最も影響力のある国際ジャーナリスト40人”のひとりに選ばれたジャーナリスト。

世界中で起きているさまざまな紛争の現場にはジャーナリストが取材に出かけて、現地の状況をテレビなどのメディアを通じて僕らに伝えてくる。僕らは現地からの中継の画面を見て、臨場感溢れる中継画像に興味を惹かれる。しかし、そうして中継される内容のセリフ一言一言が現場ではなく、紛争地から遠く離れた大都会にあるメディアのビルの中で考えられたものだったらどう思うだろうか。本書は著者が中東特派員として、現場から中継や取材を行ったときの経験を語る。

現場からの中継も、結局放送局側から指定されたセリフを話すように言われる話とか、中東でのクーデター後にニッコリしている現地の子供が掲げたアメリカの国旗が実はそういう中継用の国旗を手配する会社が用意したとか、自分の想像を超えてた。本当なんだろうか。

独裁国家では何もかもが信用出来ない。情報が隠されている、規制されるのはもちろん、リークされた情報も実はわざとリークされた意図的な情報であることもある。何もかもが正常ではない状態らしい。このような状況では、独裁国家についての情報そのものが怪しい。何を信じて良いのかわからない。

内容はかなりびっくりする事だらけだが、だからといってメディアは全て信じられないと声をあげようとも思わない。そんなコトしてたら疲れてしまう。結局こういうこともあるんだよと肝に銘じておけばいいのかなと。

【読書メモ】建築には数学がいっぱい!?

建築には数学がいっぱい!?
竹内 薫 藤本 壮介
彰国社
売り上げランキング: 213387

HONZ.JPで取り上げられた一冊。本書は、理学博士の竹内薫氏と建築家の藤本壮介氏の対談形式。本当に数学がいっぱいです。ただ、読んでいると建築のことがあまり印象に残らなかった。。。建築をとっかかりにいろいろな数学の面白いお話を披露してくれるような内容だ。

完成予想図は本来三次元のものを図表という形で二次元で表現する。そこで出てくる一次元から四次元までを順に表現していく図表はなかなかおもしろい。最初、ピンとこなかったけれども、順を追って見ていくと納得してしまった。

また、スケーリングと対数では、建築で作成する模型のお話。建築に携わっている人は、単なる縮尺模型から実際の建物をイメージできるそうな。単に現物を縮尺しても、実際の建物とは違うらしい。ここでは、カブトムシを例に、カブトムシをそのまま人間と同じ大きさにすると、本当に力持ちなのか?という話があるのだが、これが面白い。しっかり計算して人間の大きさに換算すると大して人間と変わらないそうな。なんだ。

対数の話では自身のマグニュチュードの話も出てくる。マグニチュードは1変わると32倍違う。なんでこんなに違うかというと人間が違いを実感できる程度が32倍らしい。

建築に黄金比が採用されている(ようである)が、そこから、オーム貝の曲率やハヤブサの飛行経路などにも黄金比が隠れている。(対数螺旋)

他にもいろいろ取り上げられているけれど、もうお腹いっぱい。

【読書メモ】「当事者」の時代 (光文社新書)

「当事者」の時代 (光文社新書)
佐々木 俊尚
光文社 (2012-03-16)
売り上げランキング: 187

本書はHONZ.JPで取り上げられていた本。佐々木さんの著書は以前も「キュレーションの時代」を読んだが新書としてはボリュームのある本だった。本書も新書にしてはボリュームのある内容で読み応え充分。

本書は読み終わった後にいろいろ考えさせられる本だった。勝手に自分をマイノリティの立場に置いて、あたかも自分がマイノリティの代弁者のごとく発言する、「マイノリティ憑依」について、新聞報道の裏側から、戦後日本の被害者意識から、小田実による「べ平連」結成と活動の歴史、そして、学生運動へと、その歴史をたどっていくなかで「マイノリティ憑依」に陥ってしまうプロセスを明らかにしていく。戦後の被害者意識は僕自身、中学、高校の授業でも習って、かつての自分が戦争とその敗戦は「軍部が悪い」って意識に染まっていたなと思い返す。(ただ、一方で日本軍の戦略を分析した「失敗の本質」や、「IT時代の震災と核被害」を読んで、自分を含む日本の国民性にも原因があったんじゃないかと思ってる。)
佐々木さんの著書は「キュレーションの時代」もそうだが、単に知識としてだけでなく、読み終わった後も妙に考えさせられる内容だ。(読むと疲れてしまう。。。)

小田実氏や、本田勝一氏は学生時代に本を読んでかなり難しいおじさんだなぐらいにしか思っていなかったけど、本書を読んでどういう立場の人だったのかがとてもよくわかった。(本田勝一氏のNHK受信料拒否の本は学生時代の自分にはかなり強烈だった。。。)

そして、東日本大震災をめぐるうんざりするようなツイート。政府批判、メディア批判、いろいろなツイートがタイムラインを流れていたが、自分自身、多少の違和感を感じていたけれども、この本を読んですっきりした気がする。ああ、これは「マイノリティ憑依」なんだなと。
「当事者であれ」、「我々は望んで当事者にはなれない」、「他者に当事者であることを求めることはできない」。巻末での見出しだが、この部分を読んで、やっぱり、自分自身で気をつけるしか無いのかなと、他人をあれこれ言う前にまず自分自身ちゃんとしよう(笑)と思った次第。

NHK受信料拒否の論理 (朝日文庫)
本多 勝一
朝日新聞社
売り上げランキング: 216728

2012年6月2日土曜日

【読書メモ】利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>
リチャード・ドーキンス
紀伊國屋書店
売り上げランキング: 19636

本書は、「WIRED大学 新・教養学部必読書2「科学的思考」」に取り上げられていたので知った。ここで掲載された中で一位にランクされている。(2011年9月時点)科学本に興味を持った僕はここもチェックしていて、「マクスウェルの悪魔」「銃・病原菌・鉄 一万三○○○年にわたる人類史の謎」もここの記事をきっかけに読んだ本である。

本自体は名著であり、初版から30年を経過している。このような本のメモを書くのは、他にも素晴らしい書評を書いている人もいるので気が引けるけど軽くメモしておく。

「遺伝子」に「利己的」という言葉がついていて、「?」という感じだった。我々哺乳類を始め、命ある生命は細胞レベル、そして、遺伝子にたどり着く。そして、遺伝子はすべて利己的だという点についていろいろなケースを検証している。

動食物のすべての活動は、利己的にも利他的(母が子を守る、ある群れの一匹が自らを囮にして他の群れを守るなど)にも捉えることができる。だから利他的な動物もいるではないか、この利他的活動もレベルを変えればその群れにとっては利己的なのではないだろうかといったことなど、その他にもいろいろ書かれている。

利己主義と利他主義の淘汰は、「世代間の争い」や「雄と雌の争い」では、子供がいかに親にかわいがられるか(=餌をもらえるようにするか)、雌はいかに最小の労力で子供を育てるのか、雄はいかに楽に自分の遺伝子を残すかなどは、それぞれのケースをシミュレーションして説明していて、面白い。

「気のいい奴が一番になる」の章では、囚人のジレンマ・ゲーム、鳥のダニ取りゲームなどの具体的ケースを元に展開している。

本の厚さがかなりあるので、読み切った感はかなりあるが、どこまで理解できたかはわからない。分かった気でいればいいか。。。