今年読んだ本の中で個人的に一番のヒット。高度な医学知識を身につけた医者は、それらの知識を実際の現場で様々に応用して、的確な治療方法を瞬時に判断し、治療に当たらなければならない。ちょっとしたミスは、患者の人命にも関わることもあるのである。
患者はコンピューターではなく、千差万別な生きている人間だから、症状を話す言葉もそれぞれ。同じ患者でも話す言葉、単語が異なる。そして、医師もまた人間であり、ミスをゼロにすることはできない。
本書は、医師である著者が、過酷な医療現場でどのように学び、そして、医療の現場で起こりうる(または起きてしまった)失敗、そしてそれらの失敗をどうやって減らしていくのかといった点について、実際に取られているいろいろな現場での取組みを医師の声を元に「現場の医師はどう考えるのか」を明らかにしてくれる。
この本では、治療効果もなく、具体的な原因の分からない「やっかい」な患者を見事な方法でその症状の原因を特定し、適切な治療を行った医師が登場する。
彼らは単にスーパーマンなのだろうか。そして、彼らはなぜ、原因の特定に至ることができたのだろうか。彼らに共通するのは、過去の苦い経験を忘れずに覚えこみ、思考に組み込む。まず、失敗を忘れずに覚えるということが大事なのだ。嫌なことは忘れて・・・・これでは一向に問題は解決しないのだ。(耳が痛い。。。)失敗の原因を追求するのは業種が違えど同じだと思う。失敗の解決法のアプローチとして、としても参考になるかもしれない。
医師は患者と患者と挨拶を交わした瞬間から診断のことを考える。顔色、目や口の動き、座り方、立ち方、声の響き、呼吸の深さなど。研究によると、ほとんどの医師は患者とあった時点で即座に二、三の診断の可能性を思いつくらしい。病院の先生は頭がフル回転なのだ。
珍しい症例は、「症例報告」という会議で医療関係者に共有される。そこでは、実際にその症例に立ち会わなかった医師も症例を学ぶことができる。ただ、ここでは、医療のミスの経過については細かく分析されることはないらしい。だから、本書では、これらの場で徹底的に医療のミスについて究明されるように分析が必要であるとしている。
医療現場は、効率的に患者をまわすことが求められる。患者が多いのである。だがそういう状況は「ミス」を引き起こす原因となる。そのような状況にどうやってアプローチをすればよいだろうか。ここではある診療所のアプローチが紹介されている。そこの放射線科医は、同僚が撮影したX線写真を四〜五枚読影している。こうすることで各々の読影の結果を比較して、相互チェックするのである。間違いをみつけることはもちろん、同僚の間違いから学ぶこともできるのだ。
本書では、医師の考え方を述べているが、そこには患者の言葉も重要なのだ。「最悪の考えられる症状は何ですか。」、「他に何が考えられますか。」患者や、患者の親族によるこういう言葉は時に医師の狭まった視野を広げてくれる。