2015年11月29日日曜日

【読書メモ】杉原千畝: 情報に賭けた外交官 (新潮文庫)

杉原千畝: 情報に賭けた外交官 (新潮文庫)
白石 仁章
新潮社 (2015-09-27)
売り上げランキング: 494

昔、『知ってるつもり?!』というテレビ番組で取り上げられてたことを覚えている。第二次世界大戦の最中にナチスのホロコーストから逃れてきたユダヤ人避難民に対して日本通過ビザを発給して多くの命を救った杉原千畝である。

本書では、杉原千畝の生い立ちから、外務省で働く1924年以降、「命のヴィザ」の発給までにインテリジェントオフィサーとしての側面を描いたものだ。本書の参考文献に挙げられている数々の外務省記録や研究書の内容に基づいて描かれる杉原の活動は第二次世界大戦開始~戦中~戦後と目まぐるしく変わる各国の思惑が交差するリトアニアの情勢と相まって、読んでいて緊迫感を感じる。あっという間に読み終わってしまった。

著者の白石仁章氏は25年に渡り杉原千畝に関する研究を行っており、杉原に関する著書もいくつかある。本書を読めば、外交官である杉原はユダヤ人にビザを発行しただけでなく、大戦時に世界的に孤立していく日本に欧米やソ連の動向に関する貴重な情報をもたらしたことがわかるはずだ。

2015年10月24日土曜日

【読書メモ】『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』

お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント
エミリー オスター
東洋経済新報社
売り上げランキング: 259,372
本書の著者、エミリー・オスターは大学で経済学を教えている。 本書では、そんな著者が妊娠し、出産までに至るまで、様々な問題を経済学の「ツール」を用いてひとつひとつ決断していくというもの。だた、妊娠・出産に関する本なので、いろいろ妊娠に関する「へぇ〜」ということも書かれていて十分勉強になる。

「ツール」とは、情報を集めて、それらの情報を元に自分にとってプラス面とマイナス面を吟味し、決断していくこと。大事なのは自分にとってというところ。つまり人それぞれプラスとマイナスは異なるから、結論も自ずと異なることもある。

本書では実際にデータを収集して著者自身が決断を下す過程が描かれる。例えば、妊婦にとってカフェインの摂取、タバコ、アルコールなどダメと言われていることは色いろある。しかし、どれくらい駄目なのか、本当に駄目なのか、著者はデータを集めて決断を下す。

実際にビジネスでも普段の生活の中でも判断を下す場面は色々出てくる。特に大事な判断を求められるときなど、本書の内容は十分参考になるはずだ。

情報を集めるとはつまり、事実の確認だ。そして、事実に基づいてプラスとマイナスを判断する。ネットでデマに出くわす昨今、これ実はとても大事なことではないだろうか。

2015年7月20日月曜日

【読書メモ】『帳簿の世界史』

帳簿の世界史
帳簿の世界史
posted with amazlet at 15.07.20
ジェイコブ ソール
文藝春秋
売り上げランキング: 455

簿記を勉強している人は、ぜひ本書を手にとってみて欲しい。退屈な簿記の勉強に俄然やる気が出てくる(かもしれない)。それくらい、本書の内容は示唆を与えてくれる。
本書は本年7月時点で、自分にとってベスト本といっても差し支えないかもしれない。

複式簿記という帳簿がなぜ必要なのか、そして、その複式簿記という帳簿を通じて、会計が国家にとっていかに重要なのか。本書ではその点をイタリア、スペイン、オランダ、イギリス、フランス、アメリカなどの主要な国々の歴史を通じて解説する。 共通するのは、簿記はツールとして使いこなせば国の繁栄を左右するぐらい強力なツールであるが、その運用はいろいろ困難を伴うことだ。

本書の中では、上記の国々における複式簿記を使っていくことに大変な忍耐と労力とともに、優秀な人材によって初めて運用による効果が導き出されており、少しでも努力を怠ったり人材がいなくなってしまうとあっという間にに国が衰退していしまうというわかりやすい歴史が示されている。素晴らしいけど大変な複式簿記の運用を歴史上の人物が体を張って示してくれているのだ。

本書では、簿記の歴史を通じて歴史上の重要な人物にも巡り合える。「英国陶工の父」と言われるジョサイア・ウィジウッド、フェリペ二世、ルイ16世、ベンジャミン・フランクリン、マックス・ウェーバー(社会学者)・・・などなど 個人的に簿記を使っていた人の中には「この人も簿記会計やってたのか」と初めて知ることも多い。

後半では、鉄道の財務会計を通じて会計監査が必要になることが語られる。というのも、鉄道は資本が莫大で固定資産が多く、減価償却が重要になるが、管理がとても大変である。その結果、粉飾が横行するため、投資家に向けて正しい会計情報を開示するためには会計監査が必要になるのである。

プライスウォーターハウスクーパースやムーディーズなど、ニュースで聞いたことのある企業名は、これらの会計監査を行った人物が起こした企業なのである。

本書を読み終えると、自分の家計簿を複式簿記で管理してみようと思わせてくれるが、運用は大変であることを肝に銘じておこうと思う。



2015年7月18日土曜日

【読書メモ】『図解・電車のメカニズム―通勤電車を徹底解剖 (ブルーバックス)』

図解・電車のメカニズム―通勤電車を徹底解剖 (ブルーバックス)
宮本 昌幸
講談社
売り上げランキング: 299,189
個人的だが、電車、特に台車に大変興味がある。台車は乗り心地を良くして、走行を安定させるという目的において、同じレールを走る上で、方式はかなり限られると思うのだが、実に多様な方式が存在する。

近年はコストと軽量化を突き詰める車両が数多く開発されているが、方式は微妙に違うのだ。この謎を解明すべく、WIKIを調べてみたところ、一つ一つの台車について実に丁寧な解説が載っていて関心したが、自分の疑問に答えてくれているとは言いがたい。

ちょっと調べるぐらいでは十分な内容だが、自分としては、専門の書籍でも読んで、深く調べてみたいと思い、書籍をあたってみたものの、台車について深く記述されている物が少なく、途方に暮れていた。

ということで本書である。 ブルーバックスという限られた紙面上、台車について深く調べるというわけには行かないものの、蛇行動(台車を語る上で欠かせない、走行上、台車に発生する振動の問題)にも触れており、比較的台車についての記載は多いのではないかと思う。

本書では、他にも台車を始め、モーター、冷暖房を始めとする電車の車両についてコンパクトな解説がされている。電気系統についてはかなり深い内容があるので若干ハードルは高いものの、十分楽しめる内容ではないかと思う。

【読書メモ】『日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点』

日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点
片岡 剛士
幻冬舎
売り上げランキング: 103,997
本書は、2013年のアベノミスクの分析。
円安は進んだが、輸出が思ったより伸びない。株高も進み民間消費は増加したものの、幅広くは浸透していない。実質金利も低下して設備投資も増えたけど、緩慢。公共投資も増えたけど高級制約もあって工事高、工事費の拡大など、景気の回復にはまだまだ課題もある。

本書ではこのような課題について客観的データと元に分析を行う。 丁寧な説明で読みやすい内容で、途中で飽きてしまうこともない。

しかし経済は難しい。本書も読んでいると理解できるが、読み終わったら上手く説明できない。経済学の勉強はまだまだである。

【読書メモ】『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編
ティモシー・テイラー
かんき出版
売り上げランキング: 11,506
こちらはマクロ編。 読みやすくて、何より整理されているのでわかりやすい。

【読書メモ】【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!

【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!
高橋 洋一
あさ出版 (2015-02-20)
売り上げランキング: 4,476

『21世紀の資本』を買わずにこっちを買ってよかった(笑) そう思わせてくれる一冊だった。

自分にとって、を買っても積読本になっていたであろうことを想像していたので、手っ取り早く要所が分かる本がないかと本書を見つけた。

本書は図でもってトマ・ピケティの『21世紀の資本』の要所を説明してくれる。「とりあえずどんなことが書いてあるのかな」と興味を持たれたなら本書を買ってみるのがいいかもしれない。
個人的には図からどのようなことを読み取って論理展開しているのか、そのアプローチのしかたが興味深い。

2015年3月22日日曜日

【読書メモ】『経済で読み解く大東亜戦争』

経済で読み解く大東亜戦争
上念 司
ベストセラーズ
売り上げランキング: 210

戦争の背景を経済からたどる本書は今まで経済に関する本を読んでもしっくりこなかった自分にとって、歴史と経済が融合した大変読みやすい内容の一冊であった。

受験で日本史を先行した人なら本書を読めばいろいろ目からうろこの事実を知ることになるだろう。 実際受験で日本史を学んだ自分も、あの歴史の裏側にこんな経済的背景があったのかと何度もひざを打ったことしきり。

また、世界史についても金本位制が世界に与えた影響について分かりやすく書かれており、いままで点の知識だったものが線で結ばれる感覚は読んでいて大変気持ちが良い。

歴史を学んだひとりとして、上念氏には本書以外にも、もっと歴史と経済を紐付けた本を書いていただきたい。

【読書メモ】『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼 (PHP新書)』

ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼 (PHP新書)
松尾 匡
PHP研究所
売り上げランキング: 48,772

政府が経済政策に介入したケインズ型の「大きな政府」による政策は70年代に行き詰まり、代わって「小さな政府」のスローガンのもと、政府による介入を極力少なくした政策が目指されるようになった。しかし、著者はこの「大きな政府」による経済政策からの転換を「転換x」し、この「転換x」は「小さな政府」ではなく別のものであると主張する。

本書ではその「転換x」について掘り下げていく。その中で述べられているのが「リスク・決定・責任の一致が必要」、「予想は大事」である。このキーワードは社会主義国家である旧ソ連型経済の失敗を例に語られるが、実は資本主義国である日本にも当てはまる事例があることが語られてとても身近に実感しやすい。

例えば、沿岸漁業や医療法人の例などはなぜ株式会社化せず、漁業組合なのか、医師はなぜ医療法人なのかが「リスク・決定・責任の一致が必要」で当てはめていくととても納得できる。

また、反ケインズとしてミルトン・フリードマンにも触れられている。初心者にはとてもわかりやすい。彼は不況時の財政支出、金融拡大は一時的には雇用・生産が増えることを認めたのに対してそれをも否定しロバート・ルーカスの名も挙げられており、彼の主張した合理的期待モデルや、それらからゲーム理論そして、比較制度分析への広がりを見せていく。新書という限られたなかでコンパクトにまとめられているので経済初心者が読んでもとっつきやすい。


2015年3月1日日曜日

【読書メモ】『GO WILD 野生の体を取り戻せ! ―科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス』

GO WILD 野生の体を取り戻せ! ―科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス
ジョンJ.レイティ リチャード・マニング
NHK出版
売り上げランキング: 3,926

本書は、日々の食事や運動など、自分のカラダについて様々な気づきを与えてくれる一冊だ。 本書を読み終わると、それまで読んだことのあるカラダに関する本(腸とか運動とか食事など)の内容が全てつながっている事がわかる。
野生に戻るということは、腸の働きを良くして脳にも好影響をもたらす。

ランニングが脳に良いということは、様々な本で指摘されている。本書では、ランニングのやり方にもヒントを与えてくれる。
トレイルランニングなどの複雑な地形を走る行為は、脳に対して様々な情報(=刺激)を与えてくれる。一方、スポーツジムなどにあるローラーの上を走ることは脳に対してそれほどの刺激を与えることはない。
単に走ればいいというわけではなく、脳に対して多様な刺激(多様性)が大事なのである。

食事についても、多様性が大事であることに変わりはない。
高密度炭水化物やトランス脂肪酸が体に良くないことを述べつつ、それは現代の工業的な食事の単調さを避ける事を推奨している。風味・色・食感など多様な感覚を感じることが大事なのである。

2015年2月8日日曜日

【読書メモ】『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編』

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編
ティモシー・テイラー
かんき出版
売り上げランキング: 4,088

本書の著者はスタンフォード大学の講師による経済の入門書である。池上氏は日本語翻訳版の監修、監訳という形で名前が載っている。 どの程度、池上氏の意向が反映しているのかはわからないが、ポイントが整理されていて、わかり易い言葉で書かれており大変読みやすい。

2015年1月5日月曜日

読書メモ『なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)』

なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)
春日太一
新潮社
売り上げランキング: 2,153

刺激的タイトルだ。時代劇が”滅びる”ことが前提であるかのようである。だが、それは本書で語られている事実で明らかになる。時代劇に何を求めるか。本書読んですごく腑に落ちた。

昔は何気なくチャンネルを合わせた再放送の時代劇に気付いたら最後まで観てしまったということがあったが、最近は違和感ばかりが目立ってしまってチャンネルを合わせることすら無くなってしまった。この違和感が、単に自分だけが感じていた違和感かと思ったが、演出、キャラクターの描き方、配役など、本書を読み終わった後に「やっぱりそうだったのか」と納得した次第である。

1996年 テレビ東京
1997年 日本テレビ
2003年 フジテレビ
2007年 テレビ東京
2011年 TBS

上記は民放テレビ局における時代劇レギュラー枠廃止の変遷である。2011年のTBS最後の廃止とは、ご存知『水戸黄門』の終了である。
本書では60年代の映画時代劇より時代劇の衰退を順を追って解説している。

衰退の原因は様々語られているが、例えばプロデューサー。ある時代劇プロデューサー曰く、

”視聴者が、もういいと言わない限り黄門さまは偉大なるマンネリ街道を歩み続ける。いわんや高齢化日本の現実はその歩みを止めることを許さない”

”『水戸黄門』が高齢化社会の応援歌になるのなら、私は人になんと言われようと『水戸黄門』を作り続ける”

これは『水戸黄門』の著名プロデューサーの言葉である。時代劇の対象は高齢化世代であることを明言しているのである。

本書では時代考証についても触れている。時代考証はどこまで重視すべきか。個人的に疑問に思っていたが、それは時代劇に何を求めるかを考えれば自ずと答えが出てくる。時代考証に充実であればあるほど、それは歴史書と変わらなくなってしまう。図書館で歴史書を読めばいいのである。一見あたりまえだが、読んでなるほどと思わず膝を叩いた。

どうしようもなく憎たらしい悪役をバッサバッサ切っていくようなスカッとする時代劇をもう一度見たいものである。