冷泉彰彦
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本書は堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』とあわせて読んでみた。同じアメリカを語る二冊の本だが、こちらは、堤氏の著書への反証という形をとる内容となっているらしい。つまり、アメリカの格差社会は本当に絶望的なのか?である。
著者にとって、堤氏の著作は格差・貧困を告発しておいて、それらの被害者に対する心からの同情や連帯感が感じられない点や、それらの単なる観察で済ませてしまった点に違和感を覚えたとしている。
また、悪い面ばかり強調して、「アメリカの機会の均等」制度についての説明がほとんどされていないといった点も気になるらしい。そこで本書では、機会均等を実現するための各種の奨学金制度についても説明している。
本書を読んで、堤氏の本を読んだ後の悲壮感がどこまで緩和されるのかなと思ったが、制現状が厳しい状況であることに変わりはないといったのが読んでみた感想である。ただ、奨学金制度についての具体的な説明は興味深い。
読み進めると堤氏への反証はそれほど厳しくないといった印象だ。むしろ、本書の発売時(2010年7月)時点でのオバマ政権の対応について苦しいながらもうまくやっているといった内容である。「チェンジ」を掲げたオバマ政権の国際社会への発信内容について、「抽象的な理念と具体的な施策との間に連続性を持たせたメッセージで、それらはしっかり伝わっている」と褒めている。また、医療保険改革も、本書発売時に上院案を可決したことを評価をしている。このあたりは、本書にも触れられているとおり、本書発売時点で具体的な政策が発表される前であるため、読んだ感じではぼんやりする。メッセージを評価するといっても(政治的には重要かもしれないが)イマイチ実感がわきにくい。
本書では、ティーパーティーについてもふれられている。貧困や格差を語る上で、ティーパーティーのような草の根保守について語ることはアメリカ社会を語る上で重要だという。たしかに、ティーパーティーは町山氏の著書『99%対1%アメリカ格差ウォーズ』でも紙面を割いて解説されている。
本書の最後では、移民の問題にもふれているが、色々あって大変な国である。