2012年11月18日日曜日

【読書メモ】アメリカは本当に「貧困大国」なのか?

アメリカは本当に「貧困大国」なのか?
冷泉彰彦
阪急コミュニケーションズ
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本書は堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』とあわせて読んでみた。同じアメリカを語る二冊の本だが、こちらは、堤氏の著書への反証という形をとる内容となっているらしい。つまり、アメリカの格差社会は本当に絶望的なのか?である。

著者にとって、堤氏の著作は格差・貧困を告発しておいて、それらの被害者に対する心からの同情や連帯感が感じられない点や、それらの単なる観察で済ませてしまった点に違和感を覚えたとしている。
また、悪い面ばかり強調して、「アメリカの機会の均等」制度についての説明がほとんどされていないといった点も気になるらしい。そこで本書では、機会均等を実現するための各種の奨学金制度についても説明している。

本書を読んで、堤氏の本を読んだ後の悲壮感がどこまで緩和されるのかなと思ったが、制現状が厳しい状況であることに変わりはないといったのが読んでみた感想である。ただ、奨学金制度についての具体的な説明は興味深い。

読み進めると堤氏への反証はそれほど厳しくないといった印象だ。むしろ、本書の発売時(2010年7月)時点でのオバマ政権の対応について苦しいながらもうまくやっているといった内容である。「チェンジ」を掲げたオバマ政権の国際社会への発信内容について、「抽象的な理念と具体的な施策との間に連続性を持たせたメッセージで、それらはしっかり伝わっている」と褒めている。また、医療保険改革も、本書発売時に上院案を可決したことを評価をしている。このあたりは、本書にも触れられているとおり、本書発売時点で具体的な政策が発表される前であるため、読んだ感じではぼんやりする。メッセージを評価するといっても(政治的には重要かもしれないが)イマイチ実感がわきにくい。

本書では、ティーパーティーについてもふれられている。貧困や格差を語る上で、ティーパーティーのような草の根保守について語ることはアメリカ社会を語る上で重要だという。たしかに、ティーパーティーは町山氏の著書『99%対1%アメリカ格差ウォーズ』でも紙面を割いて解説されている。

本書の最後では、移民の問題にもふれているが、色々あって大変な国である。

【読書メモ】99%対1% アメリカ格差ウォーズ

99%対1% アメリカ格差ウォーズ
町山 智浩
講談社
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ちょうど本書を読んでいるタイミングでアメリカ大統領選挙が行われた。本書の知識を踏まえて選挙をみると、単にどっちが勝った、負けただけでなく、どのような支持団体が、なぜ、その政党を支持するのかがわかってくる。

僕のアメリカについての知識は義務教育、そして、高校の日本史と世界史の時にならったアメリカと、あとはメディア(映画含む)からの断片的かつ偏った知識のみ。はて、この知識でもって、本書を読むと、自分はアメリカについて何も知らなかったなと痛感。(それはそうかもしれないが(笑))

かいつまんでいうと、アメリカ大統領選挙では、東部と西部に支持者の多い民主党と南部と中西部に支持者の多い共和党という二大政党が争っている。

民主党支持基盤には人口の多い大都市があり、経済・文化の中心を占める地域だ。つまり、多民族であり、平均年収も比較的高く、人口中絶や同性愛者の権利も守り、銃規制も求める「リベラル」な人が多い。
一方、共和党支持者の多い地域は、農業や製造業が中心の大きな田舎がほとんど。白人率も多く、平均年収も低い。人工中絶、同性愛にも反対。銃規制も反対。保守と言われる人たちが多い。


共和党=保守と聞くと、なんだか規則やら、旧い考えやら頭が硬そうなイメージだが、実は共和党の理念は「自由」。自由市場、自由競争、小さな政府なのだ。そう考えれば、たしかに銃規制に反対というのは、つまり、銃を持つ自由を主張するのもわかる話しである。
民主党の理念は「平等」。だから、福祉は充実してみんなを満足させる。そして、公共事業も増やして雇用を創出して貧困を減らしたい。さらに富裕層からは税金もたくさんとって貧しい人たちへ分配。
以上から、「自由」の共和党と「平等」の民主党がバランスを取りながらアメリカは成り立つ国家なのだ。

次に、支持基盤について。南北戦争では、奴隷制度廃止を主張した共和党と、奴隷制度維持を主張した南部連合政府との戦争であり、南部連合政府は民主党である。だから、南部はもともと民主党の支持基盤だった。

では、なぜ今、南部は共和党支持層が多いのか。それは、1929年の大恐慌がきっかけだった。当時、ニューディール政策を行なって経済を建てなおしたのはご存知、ルーズベルトで、民主党だ。ニューディール政策は政府の積極介入と富の再配分によって貧富の差を縮めようとするものだから、社会主義と資本主義の間のようなもの。社会民主主義だ。この政策は人種にも拡大して適用されたから、労働者には支持される一方、南部の自由主義者には受け入れがたかった。そのため、民主党支持だった南部の人たちは共和党支持へと回ることになる。

共和党はさらに、ニューディール政策の社会自由主義から、規制緩和、福祉削減、富裕層への減税、公共事業の民営化などを訴える新自由主義が提唱される。

このあたりの知識を踏まえて本書の本編に入る。
まず、驚いたのがTV局であるFOXニュース。日本で放送局というと形だけは中立、公平を歌っているが、FOXニュースには当てはまらない。ここは、メディアという手段を使った翼賛団体なのだ。民主党のオバマ大統領をテトリス・人種差別主義者と呼んだりやりたい放題だ。そして、しまいには巧みな映像編集を行なって公然と捏造報道を行うのである。(事実が明らかになると後に謝罪する場合はあるが)

それから、ティーパーティーという支持団体の存在だ。この団体の名前は1773年のボストン・ティーパーティー事件(茶会事件)からきている。本国イギリスからの紅茶などのかけた高額の税金に反発した事件である。オバマ大統領が掲げた増税政策、医療保険改革に対する強力な反対運等を繰り広げる。

医療保険改革が出てきたので触れておくと、日本では当たり前の公的な医療保険がアメリカにはない。だから、お金のある人が自前で保険に入れればよいが、所得の低い人は保険に入れない。つまり、高額の医療費を払って治療するか、治療を諦めるしかないのである。この公的な医療保険政策に反対する共和党や、ティーパーティーの存在自体が日本にいると不思議でならないかもしれないが、本書を読んで共和党の由来、ティーパーティーの支持母体を見てみると、その理由もわかってくる。

本書では、他にも、凄まじい中傷CMや、メディアのバトルなど、こんな国が世界のリーダーなのかと思うと若干不安に思ってしまうが、まぁ、日本もひどい状況なので、選挙で少しでも良くしていきましょう(笑)

2012年11月10日土曜日

【読書メモ】アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)

アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)
町山 智浩
集英社 (2012-07-20)
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著者は映画評論でお馴染みの町山智浩氏。TBSラジオの番組での町山さんの映画批評は毎回話しに引き込まれてしまう。そんな町山さんの本を前々から読みたいと思っていた。

本書は、集英社のスポーツ雑誌「Sportiva」に連載されたエッセイを集めた単行本『アメリカ人は今日もステロイドを打つ』(2009年2月)の文庫化。内容自体は3年前のものとなるが、本書も登場する人物が僕の世代にドンピシャなのであっという間に読んでしまった。

僕にとってカンセコは当時、TVゲームでバカスカ打つキャラクターだったから凄い選手というイメージを持っていたし、マグワイアもテレビでホームランを量産する映像を見たからお馴染みの選手だ。ただこの二人、ステロイドを打つ仲だったというのはショックだ。




アメリカにおけるステロイドの実態について本書で触れられていることを簡単に書くと、ステロイドの使用者の15%はプロアスリート。残りの85%はアマチュアに広まっている。そう、アマチュアの方にむしろステロイドの使用が広まっているのだ。ステロイドの一番の危険性は、「ロイドレイジ」といわれる。これは、怒り・憂うつ、自殺衝動を誘発する副作用のことで、有名WWEレスラーが妻子を殺して自分も自殺するという悲惨な事件があったが、これも、ステロイドが原因らしい。
(その後の取材調査で、「ロイドレイジ」のような副作用が起こる可能性はステロイド使用者の5%に過ぎないことが判明するが)
薬物という反則を使って大きく、強くなるという男性の欲望だけでなく、女性も整形とそして、ステロイドいう手段を使ってきれいになろうとするひともいる。ステロイドは手軽に利用できる環境なのだろう。

僕が洋楽にハマった80年台から90年台はアメリカのドラマや映画を貪るように見たから、そのイメージは自由の国、誰でも夢を叶えられる国という漠然としたイメージができあがっていた。ただ、本書でも触れているとおり、スポーツや俳優などでスターになれる人、食べていける人はほんのひとにぎり。実際は悲惨な事件が起きたり、いろいろ大変である。

【読書メモ】鉄道と国家

鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)
小牟田 哲彦
講談社
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本書は鉄道と政治にまつわるエピソードを紹介する。 著者は小牟田哲彦氏で、鉄道に関する著作や紀行文の連載を多数執筆している。

日本の鉄道網はおよそ二万七千キロ。その中には路線単独で赤字の路線も存在する。資本主義の観点から見ると、そのような路線が存在することは不思議なことである。しかし、著者は、鉄道は経済原理以外の要素、公共交通機関という性格を帯びているためであり、公共性が存廃の要素に関わることは政治の力に左右されるのは必然と著者は語る。特に、日本の鉄道は「政治路線」と言っても過言でないらしい。

 新幹線に使用されている線路の幅は国際標準軌であるのに対し、他の国内の在来線はそのほとんどが、それよりも狭い狭軌と呼ばれる規格にそって建設されている。それななぜだろうか。
鉄道敷設を進めた明治以降、日本は一刻も早く欧米列強に追いつかなければならない。そうなると、なるべく安く、より広い地域に鉄道を普及する必要がある。一方で、確実な輸送力を確保するためにしっかりした路線建設が必要となる。結局、当時は一刻も早く整備をすすめることを優先したようである。

軍事にとって、鉄道輸送の重要度は極めて高い。我が国がそのような認識を持ったのは西南戦争で、兵員や物資の輸送に活用したのがきっかけとなった。また、当時、それまでのフランス軍制から、普仏戦争で勝利したプロイセン(ドイツ)軍制に移行し、そのプロイセンが鉄道輸送を活用していたことも、鉄道輸送に着目するポイントになったのである。
日清・日露戦争の頃には軍事輸送体制がほぼ確立する。そして、その頃の路線は、現在のJRの主要な営業路線となって今に至る。今日の鉄道も戦争が元となっているのである。

鉄道誘致は地域に利益をもたらすと考えられたことからその地域の政治家は必死になって誘致合戦を繰り広げた。それは、我田引水をもじって我田引鉄と揶揄されるほどの露骨な誘致合戦だった。東京と新潟を結ぶ上越新幹線。新潟が田中角栄の故郷だからというのは有名な話。また、我田引鉄による停車駅設定の例として、岩手県と宮城県を走るJR大船渡線が挙げられている。大船渡線は、そのいびつな線形は、びっくりするほど露骨であり、これらの露骨な政治的な駆け引きを読むと、えげつない政治家がいるんだなと思ってしまう。

利用者が少ない路線は当然赤字に陥る。地方の赤字ローカル線が廃止される昨今、これらを何とかしなければならないという考えも当時はあった。しかし、当時鉄道建設審議会の小委員長であった田中角栄元首相が赤字を出しても良い。国鉄の役割であるという主張をした。これが元で赤字路線はそのまま赤字を垂れ流し続けたのである。

最後は、海外への鉄道進出に触れられており、今後の日本の鉄道のあり方について触れられている。個人的には、せっかく世界に輸出された日本の車両が某国のいい加減な運行で事故を起こして、しまいには埋められちゃうような映像は見たくない。輸出先は民度も含めて慎重に選んだほうがいいんじゃないかと思います(笑)