2012年7月23日月曜日

【読書メモ】ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)
塚本 勝巳
PHP研究所
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本書は長年謎だったニホンウナギの産卵場所を特定し、その生態を明らかにするまでをドラマチックに語ってくれる。新書だがカラーページもあってわかりやすい。
著者は海洋生命科学者。世界で初めてウナギの卵を採集しニホンウナギの産卵場を特定する「世界的ウナギ博士」である。

ウナギは海で生まれ、成長するに従って、プレレプトセファルス、レプトセファルス、シラスウナギ、クロコウナギ、黄ウナギ、そして銀ウナギという形態をとる。シラスウナギは川の河口でよく獲られるものだ。卵から孵化して河口に到達するまで半年を要する。

では卵はどこで生まれるのか?世界には十九種・亜種のウナギが生息するが、そのうち半数については産卵場が推定されている。そう、推定されているのであって、特定はされていないのである。発育のすすんだレプトセファルスが採取された場所であり、卵や産卵直前の親が存在する地点は残念ながら特定された種類は少ない。

1922年にヨーロッパウナギの卵が大西洋のサルガッソ海で孵化していることが論文で発表されるが、ここはヨーロッパからはるか数千キロも離れたところに位置する。ウナギは孵化してから数千キロを旅しているのである。そして、数千キロの旅には海流が多大に影響する。

日本では、1967年のレプトセファルスの発見をきっかけに研究が進んでいく。ウナギの産卵場所は、レプトセファルスの耳石という年輪状に刻まれる小さな石の分析と海流の緻密な計算により徐々に特定されていく。そこでは、大型の調査船を使った航海が何度も行われ、失敗を繰り返しつつ徐々に産卵場所を特定していく過程が読んでいて、とても引き込まれる。
最終的に、産卵場所が日本から遠く離れたグアム島の西側の地点に特定されるが、その場所は日本からはるか2300kmも離れたところである。

ウナギは海流に揺られながら長旅を経て日本へやって来る。海流の流れが少しでも変われば日本には到達できないわけで、大変デリケートな生き物ではないだろうか。今うなぎがとれないらしい。本書を読んだ2012年7月もウナギが高騰している。そんなウナギは人間がちょっとやそっとやったぐらいではどうにもならないのかもしれない。